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東京家庭裁判所 昭和37年(家)6519号 審判

申立人 大田久子(仮名)

相手方 大田広康(仮名)

主文

本件当事者間の東京家庭裁判所昭和三三年(家)第八五六四号婚姻費用分担事件につき、東京家庭裁判所が昭和三十三年七月二十八日にした審判を左のとおり変更する。

相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として、昭和三十六年五月十七日以降当事者の同居の実現に至るまで、(一)毎月二十日限り一ヵ月金一八、〇〇円宛(二)毎年十二月二十日限り金四〇、〇〇〇円、毎年六月二十日限り金二〇、〇〇〇円を、いずれも送付して支払わねばならない。

理由

本件は、当初調停事件として、昭和三十六年五月十七日に申し立てられ、同三十七年六月二日不成立となり、審判に移行したものである。本件申立の要旨は、本件当事者間の婚姻費用分担につき、先に東京家庭裁判所が昭和三三年(家)第八五六四号婚姻費用分担事件として、昭和三十三年七月二十八日にした「相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として、(一)昭和三十三年八月二十日を初回として、当事者の同居の実現に至るまで毎月二十日限り一ヵ月金一万二千円宛(第一回分も満一ヵ月分)、(二)昭和三十三年十二月を初回とし、前同終期まで、毎年十二月二十日限り金一万六千円、毎年六月二十日限り金一万円を何れも送附して支払わねばならない。」との審判を、その後の申立人の生計費の増大及び相手方の俸給の昇額等の事情変更に基き、右審判条項中(一)の一箇月金一二、〇〇〇円宛とあるを金二二、〇〇〇円宛に、同(二)の毎年十二月二十日限り金一六、〇〇〇円とあるを金四五、〇〇〇円と、又同(二)の毎年六月二十日限り金一〇、〇〇〇円とあるを金二〇、〇〇〇円と、それぞれ変更する旨の審判を求めるにある。当裁判所の取り調べたところを綜合すれば、申立人と相手方とは、昭和二十一年五月に結婚式を挙げ、翌二十二年三月十九日結婚届出を了し、その間に長女京子(昭和二二年三月三〇日生)があるが、夫婦仲は必ずしも円満ではなく、陸上自衛隊員であつた相手方が、同三十一年八月愛知県豊川の部隊に転勤となつて単身赴任してから後、同年末から翌三十二年二月頃にかけて、申立外稲川良子と知り合い、関係を結ぶに至つて、決定的に悪化し、爾来完全な別居状態を続けて現在に至つていること、昭和三十三年五月には、申立人から相手方に対し、東京家庭裁判所に夫婦関係調整(内実は、同居及び婚姻費用分担)の調停を申し立てたが、右調停は不成立に終り、同年七月二十八日に前記の如き婚姻費用分担の審判がなされたこと、しかるに、右審判で定められた分担金についての相手方の履行状況は思わしくなく、申立人は昭和三十五年五月以後、相手方の俸給につき強制執行を繰り返して、右分担金を取り立てている状況であること、この間、相手方は、昭和三十三年中に名古屋地方裁判所豊橋支部に、申立人を相手どつて離婚訴訟を提起したが、同三十六年十月十七日相手方の離婚請求は棄却され、現に控訴中であること、前記審判以後、相手方は熊本にあつて同地の自衛隊に勤務しつつ、稲川良子と同棲生活を送り、申立人は東京にあつて、京子と共に、相手方から収受する右婚姻費用の分担金のほか、自己が内職で得る僅かな収入と、親許からの補助とで、相手方所有家屋において生活してきたこと、申立人は、依然として相手方との婚姻継続を望み、相手方は結局のところ申立人の離婚を希求することの故に、前記審判によつて定められた婚姻費用の分担金の支払すら前記のように遅滞しており、そのことがまた右分担金の増額を拒否する根本の理由とされていること、而して、前記審判当時に比べれば、一般物価は漸次上昇し、総理府統計局の統計によれば、東京都の消費者物価指数は昭和三十五年の平均値を一〇〇とすれば、同三十三年七月には九四・四であるのに、同三十六年五月には一〇二・六、同三十七年六月には一一二・九となつたこと、長女京子は当時小学生であつたが、現在は中学三年生になり、教育費も逐年増加し来つたこと、申立人は胃下垂等の病気のため、医療費の継続的な支出を免れないのみならず、京子の養育の関係もあつて、僅かな内職に収入の道を得る外はないこと(申立人が現住する家屋は、その広さ、構造と、申立人及び京子の心身の状況等に鑑みれば、間貸して収入を得ることを申立人に求めることは困難である)、他方前記審判においては、相手方は、当時自衛隊三佐として四号俸をうけ、その金額は、額面一箇月平均約金三五、〇〇〇円、手取一箇月平均約金二四、〇〇〇円(所得税等の公式控除のほか、宿舎費金二、〇〇〇円を含む経常的な私的経費を控除したもの)とされたが、昭和三十六年九月における相手方の給与額額面は金四六、〇二〇円(俸給のほか、扶養手当及び通勤手当を含む、以下同じ。)、支給額は金四二、〇一〇円(所得税、共済掛金及び市民税を控除したもの、以下同じ)であり、同三十六年十一月の給与額額面は、自衛隊三佐七号俸として金四九、〇二〇円、支給額は金四五、三三八円であり、更に、同三十七年一月の給与額額面は、三佐八号俸として金五〇、九二〇円、支給額は金四六、一九一円であること、又、前記審判においては、昭和三十三年六月の夏期手当は約金二一、六〇〇円(源泉課税を控除したもの)、年末手当は約金三六、〇〇〇円とされたが、同三十六年六月における期末手当は約金三六、〇〇〇円とされたが、同三十六年六月における期末手当及び勤勉手当の額面は金四五、八二九円、所得税を控除した支給額は金三九、四一三円であり、同年十二月における期末手当及び勤勉手当の額面は金一〇七、六一一円、所得税を控除した支給額は金九九、七六七円であること、以上の事実が認められる。右の事実によれば、前記審判以後も、申立人が相手方と別居していることは正当な事情に基づくものというべく、且つ、かくして相手方の申立人に対し負担すべき婚姻費用の分担額につき、前記審判において定められた金額を増額すべき事情の変更があることを明らかに認め得るところ、如上の事実のほか、本件にあらわれた申立人及び相手方それぞれの生活に必要とされる経費等一切の事情を斟酌した結果(なお、相手方は、昭和三十七年七月三十一日限り自衛隊を退職したものの如くである。しかし、当裁判所の知る限り、相手方がこの期に自衛隊を退職せねばならぬ特段の理由は認め難い。諸般の事情から推せば、それは申立人に対する婚姻費用分担を回避するための苦肉の策と解し得られないではない。そうとすれば、かかる事情が現出されたとしても、爾後の生活程度は、従前と同程度のものとして取扱うの外はない)、前期審判中、相手方の申立人に対する婚姻費用(長女京子の義育費を含む)の分担金につき、本件申立時である昭和三十六年五月十七日以降、毎月の支給額を金一八、〇〇〇円に、毎年六月のそれを金二〇、〇〇〇円に、及び毎年十二月のそれを金四〇、〇〇〇円にそれぞれ増額変更することを相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高野耕一)

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